頭を掻く人とへらへらする人のおはなし

お嬢様お坊ちゃまが通うといわれている私立の中高に通っていた際、私の親友は長老のような趣味趣向を持ち合わせた怪しい女子だった。

まず、漢字検定で出題されてもおかしくない熟語を日常生活で多発するのだ。13歳の女子中学生が「破廉恥ネ!」とそもそも発すること自体おかしいが、語尾をカタカナで締めるのもどうも昭和の文通の匂いがする。

二人で会うときは、なぜかよく中華街に行った。私服はというと頭からつま先までで12色揃う格好をし、マスクを着用した上で、カサコソと謎の走り方をしながら登場するのが通常運行である。「甘栗やすいヨ、きれいなおネェサン」とどちらかともなく販売員の真似をし、お互い応援するように笑うのである。ただひたすら、お昼から夕方まで歩き回るのだが、彼女の恐るべき会話の引き出しの多さのため、話題が尽きることはなかった。

オペラ歌手のホセ・カレーラスが彼女の1番のお気に入りだが、カラオケに行けば山下達郎の曲をこぶしをきかせて披露するのであった。能を始めとする日本の伝統芸能や相撲を娯しみ、またそれについて熱く語ることも忘れなかった。真新しい学校の図書室はおそらく彼女にしか使われていなかったのではないかという程で、彼女は頻繁に分厚い本をいくつも借り、ブラックホールの方程式といった類の本をニヤニヤしながら読んだ。

彼女は笑わそうと常に何かをしでかし、大笑いを取る。二人でふざける場合、私は怒られそうになったり白けそうになるぎりぎりでさっとやめ、彼女は一方、全力でふざけ、時に冷たい視線を浴びた。

常になぜか校舎の壁を手で触りながら歩くことに対して「汚い」とごもっともな注意をされたり、口の周りにいつも食べかすがついていたりするのを指摘されたり、突如理解されていない立場にいることに気づくと、彼女は「おかしいナァ」と体を小さくし、頭をぽりぽり掻くのであった。よく頭をぽりぽり掻く子だった。

私は彼女のセンスの悪いほど色鮮やかなスパイクと文学への姿勢に惚れ、彼女は私の、どれだけふざけても許容し、むしろ悪ノリにしっかり加勢するざっくり感が気に入ったのかもしれない。

彼女と最後に会った日、フランス人かイタリア人かの彼氏に会わせてもらい、駆け落ちするとかしないとかそういった話をパスタを食べながら聞いたような気がする。

一方、私は社会の人となった。同僚と、行き先も深みもない会話を繰り返し、二十代後半の上司が本を全然読まないと話すのをへらへらしながら聞き、私が読書家インテリキャラに成り立ってしまった時にはきっと兄と父はこれを聞いて大笑いするのだろうと思った。

彼女の歌舞伎さながらの舞踏が思い浮かぶ。全力のにらみを披露する、彼女。ドン引きする周囲。いいね、とあまり的の得ていない拍手をおくる私。おかしいナァと、きっと、語尾はカタカナで、彼女はぽりぽり頭を掻くのである。

げんきにしているのだろうか。